前回、野菜の保存方法として、乾燥による保存と漬け物について書きました。
が、漬け物については少し消化不良気味となりました。
そこで今回は、前回の補足的な意味合いで漬け物について、特に微生物との関わりあいに重点をおいて取り上げます。
まず、前回も述べた通り、漬け物は必ずしも微生物による発酵を利用している訳ではありません。
例えば、梅干しやショウガの甘酢漬け等は微生物が関与していません。
このような漬け物もおいしいものですが、これはこれとして、発酵させた漬け物は、 発酵させた漬け物で、一種独特の魅力がありますね。
栄養価も高くなりますし、香りや味わいが深まって、ご飯や醤油によく合います。
私も若い頃は、一片の沢庵だけで、ご飯を一膳平らげていました。
この発酵ですが、漬け物でよく利用されるのは、乳酸菌や酵母菌、酪酸菌といった菌です。
特に、乳酸菌はよく利用されています。
これは、乳酸菌に耐塩性があることが一因です。
漬け物は、有害な菌の繁殖を防ぐために塩分の高い漬け床を用いることが多いですが、乳酸菌はこのような漬け床でも繁殖することが出来ます(とはいえ、あまり高くなりすぎると繁殖できなくなります)。
そして、繁殖する過程で乳酸を初めとする有機酸を作り、この酸の働きで有害菌の繁殖を抑えます。
塩による殺菌と組み合わさって、二重の防御機構が働くので食品の保存には有利ですね。
次に、野菜が漬け物になる過程について述べます。
ここでは代表例として、ぬか漬けについて述べます。
漬け床は、ぬかと塩、水分を混ぜたものです。
これに、乳酸菌をはじめとする各種の有用菌が住み着いています。
これらの菌は米ぬかをエサに発酵し、ビタミン類や香味成分を生成し、ぬか床中に蓄えています。
ここに野菜を入れますと、浸透圧の原理で野菜の水分がぬか床に移動し、代わりにぬか床の栄養分や塩分、香味成分が野菜の中に侵入していきます。
こうして、有用成分を野菜に取り込んだ状態で取り出したものが浅漬けです。
すぐに取り出さずに、ずっと漬けておくと、野菜自身をエサにして乳酸菌の発酵が起こり、だんだん酸っぱくなっていきます。
そうなってから取り出したものが、保存漬けです。
ぬか漬けのみならず、塩漬けでも同様に長時間漬けておくことにより発酵し、酸っぱくなっていきます。
ところで、ぬか漬けの中には驚くようなものを材料にした漬け物もあります。
ふぐの卵巣は猛毒があることが知られていますが、石川県の特定の地域では、これをぬか漬けにして特産品として売っています。
何年にもわたってぬか漬けすることにより、菌の働きでふぐの卵巣が解毒されて食べることが出来るようになるそうです(危険ですので真似するのはやめましょう)。
このように、漬け物を作る上で、微生物の働きは大変重要ですが、最近では微生物なしで、漬け物を作っているところも数多くあります。
微生物によって生成される成分を化学的に合成して、着色剤等とともに野菜にしみ込ませる方法です。
有害菌は、熱かなにかによって消毒します。
ですが、こういった食品は、乳酸菌や納豆菌等の微生物は入っていないので、これらの菌による整腸作用は期待できません。
発酵による多数の微量な成分まで添加していないでしょうから、味に深みも感じられませんね。
月並みな結論ですが、たとえ少々値段が高くても、やはりきちんと時間をかけて発酵させた、昔ながらの製法の漬け物の方を選びたいものです。
参考にした本
川本伸一編 食品と微生物 光琳選書
・・・食品産業に関わる人のための教科書的な内容です。
ちょっと読みにくく感じましたが、有益、有害な微生物両方について詳しく述べられており、ためになります。
小泉武夫 発酵は力なり NHKライブラリー
・・・とても興味深い内容を分かりやす解説しており、おススメです。
以前にこのメルマガで、農業の政策的な保護と農業者の道徳教育の必要性について論じたことがありますが、この本にも同じような主張が書かれていたので、我が意を得たり、という気分です。
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