前回からの続きです。
前回→森林の貯水効果 その1
まずは、簡単に前回のおさらいから。
日本の森林の面積は100年くらい前から、ほとんど変わっていませんが、天然林が減って人工林が増えています。
天然林は、広葉樹林が多く、人工林は針葉樹林が多いです。
スギやヒノキ等の針葉樹の方が生育が早かったり、同じ面積で密に植えられたりすることが、人工林に用いられる主な理由です。
しかし針葉樹は、(何100年も)放っておくと、より日本の風土にマッチした広葉樹にとって変わられるため、天然林では広葉樹の方が多くなります。
その人工林は、最近では手入れが行き届かなくなったため荒廃し、雨水がしみ込まずに流れるようになって、貯水効果が失われてきています。
というところまでが、前回の話です。
では、広葉樹と針葉樹という、樹種の違い自体は貯水効果に影響ないのか?というのが、今回の主題です。
よく言われる違いとして、針葉樹は根張りが弱い、また落葉が少ないため土に腐植が少ないことが挙げられます。
そのため、土に団粒構造が発達しずらく、貯水効果が劣る、と言われることも多いです。
しかしながら、実際は本当にそうなのか、よく分かっていないようです。
というのは、土地の性質とそこで生える植物の相性があるためです。
確かに針葉樹は根張りが弱いですが、土の団粒構造の発達していない、荒れた土地でも好んで生育します。
元々の土の団粒構造が発達していないため、貯水性が劣るような印象を持たれます。
これに対し、広葉樹は団粒構造の発達した土地で生育します。
これは針葉樹とは逆に、土の貯水効果が元々高いため、あたかも広葉樹林が貯水しやすい、という印象を持たれるだけ、とも考えられます。
要するに、さほど大きな差はない、ということでしょう。
では、針葉樹と広葉樹で水に対しては何も差がないか、というとそういう訳でもありません。
水を消費する量が、かなり異なります。
雨水は、地面に到達して流れて行く以外に、
1)根から吸われて葉から水蒸気となって蒸発する分、
2)根から吸われて光合成によって有機物に合成される分、
3)葉や幹に付着して、地面に到達する前に蒸発する分、等があります。
針葉樹は、これらのうちの、1)の蒸散量が広葉樹よりも多いことが知られています。
このため、例えば広葉樹林を伐採して針葉樹の造林をしたりすると、近くの沢の水が枯れることまであるそうです。
とすると、森林(特に針葉樹林)があると、雨が降らなければ渇水になりやすくなるのでしょうか?
一般的には、森林が渇水を抑えるように考えがちですが、これはどうも誤解のようです。
森林が渇水を抑えることはないようです。
それでは、渇水を促進するのか?というと必ずしもそうでもなさそうです。
今までの研究では、渇水には影響がないという結果と、渇水を促進するという結果の二つがあり、まだ結論は出ていないようです。
また、渇水を促進させるという結果の中でも、意図的か無意識か、データを誤った解釈しているものもあるらしく(降水量の影響を考慮していない)、情報はかなり錯綜しているようです。
さらに突き詰めて考えると、木々の蒸散によって水分が水蒸気として抜けて行くということは、大気中の湿度が高まって雨が降りやすくなるのではないか?とも考えられますが、これについても影響は不明確のようです。
この分野は古くから研究されている割には、このような基本的なことがまだ明らかになっていないようで面白いですね。
あまり農業と関係ない話になってきたので、このあたりでおしまいにしたいと思います。
参考にした本
蔵治光一郎 保屋野初子編 緑のダム 築地書館
河原輝彦 多様な農林の育成と管理 東京農大出版会
・・・前回と同じ
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