今でこそ種を蒔いて芽が出てきても当たり前のように思いますが、始めの頃は随分感激していました。
小指の爪の隙間に入るほどの小さな種を蒔いて、それが一斉に発芽したりすると、大げさながら自然の驚異を感じたものです。
そこで、今回は初心にかえり、種の中でも特に発芽について焦点を当ててみたいと思います。
その前に、まずは種の構造について述べます。
種は、大雑把に言うと、皮と胚、胚乳で出来ています。
胚は植物の元となる部分で、この中に既に子葉、幼根、胚軸と、植物の構成要素があらかじめ入っています。
胚乳は胚が成長するための栄養分です。
マメ科の多くの植物のように、胚乳がなくて子葉に栄養分を蓄えるものもあります。
皮は中の胚や胚乳が乾燥したり病害虫にやられるのを防ぐ働きがあります。
種の形は球形とか楕円盤状とか色々ありますが、「へそ」と呼ばれる突き出た部分があります。
へそは種子が莢とつながっていた部分です。
人間と同じですね。
多くの種類の種は、親の莢の中で完熟した時には、休眠状態になっています。
発芽に好適な環境になってもすぐには発芽しません。
春~夏に育つような植物を例にとると、秋に種が完熟して環境がいいからといってすぐ発芽しても、その後の冬の寒さで枯れてしまいます。
ですので、最初は発芽を抑えておく必要があります。
皮や胚の中に含まれる、アブシジン酸という物質が発芽を抑えています。
アブシジン酸については、以前に籾殻についても述べました。
籾殻は稲の皮の部分ですから、これが含まれている訳です。
ちなみに、アブシジン酸と反対の働きを持つものとして、シベレリンという物質があります。
アブシジン酸とシベレリンの、二つの成分量の変動により、種の発芽や休眠がコントロールされているそうです。
話は戻って、休眠している種は、いったん低温になると休眠が解除されます。
その後、環境が良くなったときに発芽します。
発芽までの過程は大きく3段階に分かれます。
第1段階は、まず吸水します。
へその部分から入っていきます。
これは、単純に水がしみ込んでいくだけで、発芽能力の失われた、死んだ種でも吸水はしますが、この後の過程は起こりません。
生きている種は、この期間に種の中に含まれる酵素や器官の活動が活発になりはじめます。
第2段階になると、吸水が一時停止、または少なくなります。
ほとんど呼吸していなかったのが、呼吸し始めるようになります。
そして、生物が活動するエネルギーの元となるATPを作りはじめます。
そして、細胞分裂が始まります。
第3段階になると、胚乳などに含まれる成分が酵素の働きで分解して糖質などをつくり、その浸透圧でさらに吸水するようになります。
そして、DNAやRNAが活発に作られはじめ、幼根や幼芽が伸長しはじめます。
成長が進んで、自分で光合成を行えるようになるまでは、上述の糖質などが栄養源となり、これをエネルギー源として使います。
また、窒素を根が吸収できるようになるまでは、貯蔵しているタンパク質を分解して窒素源とします。
従って、成長初期は体重がだんだん減ってくるそうです。
ところで、私は植物の、こういった詳細な発生過程を勉強するとだんだん恐ろしいような気持ちになります。
こういう研究の実験台にされている生物は、どんな気分で解剖されたり薬をかけられたりするのだろう、などとついつい想像してしまいます。
参考にした本
鈴木善弘 種子生物学 東北大学出版会
発芽について知りたいと単純な理由で手に取ってみましたが、あまりにも詳しく難しすぎて悪戦苦闘する本でした。
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