植物ホルモン、その1からの続きです。
前回、植物ホルモンとして、オーキシン、シベレリン、サイトカイニンの働きを述べました。
今回は、エチレンとアブシジン酸についてです。
まずはエチレンから。
これは、果実を成熟させたり、落葉を促進させたりするホルモンです。
茎葉の生長を、抑える働きもあります。
前回述べたシベレリンやサイトカイニン等は、生長を促進させる働きがあり、この必要性は容易に理解できますが、エチレンのようなやや後ろ向きな働きを持つ植物ホルモンがあるのは、理解に苦しむかもしれません。
しかし、自動車にもアクセルに対してブレーキが必要なように、植物でも両方の働きを持つホルモンが必要です。
すなわち、早く大きく生長すればいいというものでもなく、時には早く枯れ落ちたり、大きくならないようにする必要があるということです。
ではそれはどんな時かというと、例えば虫や病害虫に葉っぱを食われたときです。
いつまでもその葉っぱがくっついていると、その植物全体が病気になったり食われたりします。
従って、このような時には、エチレンが生成して葉っぱを落葉させるように働きます。
あるいは、風の強い場所では背が高くなりすぎると倒伏する恐れがあります。
このような時には背が高くなるよりも茎が太くなって倒れにくくする方が重要です。
従って、茎が揺らされることにより、エチレンが働いて、縦方向の生長が抑えられて横方向に広がったずんぐりした形になります。
作物栽培でも、これを利用して丈夫な苗を作ることが行われています。
もっとも、有名なのは麦踏みですね。
苗がまだ小さいときに、足で踏んだり、ローラーをかけたりすることによりエチレンを働かせ、丈夫な苗をつくります。
イネでも同様に、発芽してから田植えするまでの間にローラーをかけることが一部でなされています。
野菜では、定植後にタマネギを踏むという人もいます。
人間も適度なストレスで強くなるそうですが、植物も同じですね。
もちろん、強すぎるストレスは人間にも植物にも毒ですが。
また、エチレンのもう一つの重要な働きが果実の成熟や収穫後の追熟を進めるという点です。
やわらかくなって食べやすくなりますが、進みすぎると腐ってきます。
果実のみならず、茎葉菜でも切り離されるとエチレンが出て腐りやすくなります。
収穫後、横に寝かせるとエチレンが発生しやすくなるので、保存する際には生育していた状態に近い形で置いておきましょう。
なお、エチレンには発芽を抑制する働きもあることから、ジャガイモを保存する場所にリンゴを置いておき、発生するエチレンで発芽を抑えるということもよくなされています。
ただし、これは腐りやすくなることにもなり、必ずしも勧められないそうです。
次に、アブシジン酸についてです。
アブシジン酸もエチレンと同じように老化を促進する働きがあります。
また、乾燥によるストレスでアブシジン酸が働いて、気孔を閉じる作用もあります。
この他、アブシジン酸の作用の中でも、特に重要でよく知られているのが種子の発芽を抑える働きです。
種子が成熟するにつれてアブシジン酸が増え、成熟がさらに促進されるとともに、休眠を誘導して種がすぐに発芽するのを防ぎます。
種が成熟してすぐに発芽することは、生存に有利ではありません。
例えば秋に穂が稔って種子が成熟したとしたら、その後に訪れる冬を乗り切ることが出来ないためです。
従って、休眠するためのシステムが必要となりアブシジン酸がその役割を果たす訳です。
ただし、自然に生える分にはそれでいいのですが、野菜の種まき等で、いつまでも休眠してもらっても困る場合もあります。
従って、アブシジン酸を除去するか働かないようにする工夫をする必要があります。
アブシジン酸は種の中では、主に種皮に含まれています。
そして事前に水に浸したり流水で洗い流すと少なくなります。
ホウレン草の種の事前の流水処理などは、このような発芽抑制物質を除去するために行われます。
以上、今回は植物ホルモンとしてエチレンとアブシジン酸について取り上げた。
ブラシノステロイドやジャスモン酸など、他の植物ホルモンについては、機会を改めて取り上げたいと思います。
参考にした本
小柴共一 神谷勇治 勝見允行編
植物ホルモンの分子細胞生物学 講談社サイエンティフィック
桜井英博 柴岡弘郎 芦原坦 高橋陽介 植物生理学概論 培風館
・・・以上、前回と同じ
幸田泰則 桃木芳枝 編著 三宅博 大門弘幸 共著
植物生理学 分子から個体へ 三共出版
この本も専門書で難しいですが、専門書にしては値段が安く、かつ分かりやすいです。
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