前回はコオロギについてでしたが、今回は同じ直翅目の昆虫のバッタについてです。
まずは、ざっと特徴について見ていきましょう。
コオロギと比較すれば、分かりやすいかもしれません。
まず、コオロギ、バッタとも不完全変態をする昆虫で、幼虫と成虫の形は似ています。
どちらもサナギになることなく、数回の脱皮を繰り返して成虫になります。
また、コオロギは夜行性なのに対して、バッタは昼行性です。
バッタは、昆虫の中でも特に日光が好きな部類に属します。
真夏の昼間などの暑さの厳しいときはしませんが、朝夕は日光浴をよくしています。
コオロギは夜行性のため、視覚よりも聴覚や触角がよく発達していますが、バッタの触角は短く、あまり発達していません。
逆に視覚がよく発達しています。
従って交尾のため、オスがメスを探すときなどは、コオロギは鳴き声で相手を呼び寄せるのに対し、バッタは視覚により相手を見つけます。
生活史は2種類とも似ていて、春にふ化して夏頃成虫になります。
食べ物は、コオロギは雑食性で植物も他の昆虫類も食べるのに対し、バッタは草食、特にイネ科の草が好きです。
そして、害虫としてのバッタの最も大きな特徴は、群生化することです。
サバクトビバッタという種類や、日本でおなじみのトノサマバッタ等が群生化することが知られています。
バッタの群生化による被害は極めて大きく、このためわざわざ「バッタ防除研究所」という名の専門の国際機関が作られており、そこでバッタの発生を常時観測、予察して防除に努めているくらいです。
では、群生化という現象はどのようなものでしょう?
普通、私たちがよく見るトノサマバッタは、孤独相という状態で、色は緑色かせいぜい灰色、ややどっしりした感じで足が長く、羽は短めです。
ところが、このような形態をもつトノサマバッタの幼虫も、密集した状態で育つと、群生相という状態に変わります。
色は黒褐色で体型がスマートになり、足が短く羽が長くなります。
私も写真でしか見たことはありませんが、群生層のバッタと孤独相のバッタは、同じ種類の生き物には見えません。
実際、1900年初頭まで別の種類の昆虫と考えられていました。
こうした体型の変化により、群生相のバッタは長距離の飛行をしやすくなり、群れをなして移動してエサとなる植物を食い荒らします。
この被害は凄まじく、一旦この群れに襲撃されると、手の施しようがなくなります。
日本を含めて、世界中で被害の記録が残されており、バッタの害(蝗害)が、如何に人間の社会生活に大きな影響を及ぼしてきたかが分かります。
有名なところでは、パールバックの「大地」という小説で中国での被害の様子が書かれていたり、古くは旧約聖書でも述べられています。
参考までに、該当部分を引用してみると、
「やがて空は真っ暗になり、大気は、互いに羽をぶつけあう深い沈んだようなとどろきいっぱいになった。そして畑の上に落ちてくるのだ。イナゴが飛びすぎた畑には被害はないが、いったん舞い降りたが最後、その畑は冬枯れのように丸裸になってしまうのである」(パールバック、大地)
「・・・朝になり、東風はバッタを運んできた。バッタはエジプト全土を覆い、木も畑も緑色のものは何も残さなかった。」(旧約聖書、出エジプト記)
ということになるようです。
ちなみに、バッタが1日に食べるエサの量は、自分の体重と同じ2gくらいです。
バッタの群れが、例えば5000万匹(規模としては、さほど大きいものではないレベル)いるとすれば、これにより毎日100トンもの緑が失われる勘定になります。
これは、人間数万人分の食料が失われることに相当します。
実や茎葉を利用する植物がこのような被害にあえば、その後の収穫は期待できません。
従って、バッタの害が多発する地域では根菜が主食となることが多いようです。
こういったバッタの害も、上述のバッタ防除研究所や、農薬の普及もあって、かなり軽減されてきています。
それでも気象条件などにより、現在も時折発生することがあり、社会問題を引き起こしてきています。
特に、西アフリカから中央アジアに主に生育するサバクトビバッタという種類については、人類は未だ群生化を抑える手段を持ちません。
バッタの大量発生は降雨条件によるところが大きく、乾燥した状態が何年も続いた後大雨が降ると、数年分の卵が一気にふ化するそうです。
そして、被害の終結も、気温の低下や天敵となる病原菌の発生などによる場合が多いです。
自然の前では、人知はまだまだ無力であると感じられますね。
参考にした本
矢島稔 謎解き昆虫ノート NHK出版
・・・前回と同じ
桐谷圭治 昆虫と気象 成山堂書店
・・・色んな害虫が、気象条件の変化にどのように影響されるかを分かりやすく述べており、とても興味深く読めます。
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