2010年10月12日火曜日

雑草について、その2

雑草についての話の続きです。(前回:雑草について、その1

雑草についての有名な言葉に、「上農は草を見ずして草を取り、中農は草を見て草を取り、下農は草を見て草をとらず」というものがあります。

含蓄のある言葉ですね。

この中で、中農、下農のところの意味は明瞭ですが、上農の「草を見ずして草を取り」は今ひとつわかりづらいですね。

この言葉の由来は元々、江戸時代の武士の宮崎安貞という人が書いた本にあります。

「上の農人は草のいまだ見えざるうちに中打(なかう)ちし芸(くさぎ)り、中の農人は見えて後芸る也、見えて後も芸らざるを下の農人とす。これ土地の咎人也」

つまり、まだ草が生えていないように見えるところでも実際は雑草の種が発芽しているものも多いので、土を動かして除草しましょうということのようです。

ところで、これは実は中国の明の時代の農業書「農政全書」を誤訳して載せたものだそうです。

「農政全書」の方は、乾燥地方での農業で、保水のための中耕について記載したものだそうです。

誤解が生んだ名言ですね。

それにしても、このように雑草を取らない人(下の農人)は犯罪者(咎人)呼ばわりまでされており、昔の人はとにかく徹底して草取りすることを叩き込まれている訳です。

では実際問題として、雑草が生えるとどのような問題があるか、というのが今回のテーマです。

いつもながらの長い前振りですいません。

で、唐突に答えですが、雑草の害は以下のようにさまざまな要因に分けられます。

1)栽培植物が光を受けるのを邪魔する

2)栽培植物が水、養分を吸収するのを邪魔する

3)栽培植物の生育を抑える物質を放出する(アレロパシー)

4)ある種の微生物、昆虫を寄生させ、栽培植物の病害虫の媒介となる

もちろんこの他にも、美観を損なうとか、雑草が邪魔になり収穫作業の効率が落ちる、とかいろありますが、今回は植物の生育に絞って上記4点について話を進めます。

1)栽培植物が光を受けるのを邪魔する

水分や養分は、人間が水をやったり、肥料を施したりして何とかなりますが、光は最近話題の室内農業でもないかぎり、どうにもなりません。

栽培植物の隣で雑草が生えると、光を獲得するための競争が始まります。

この場合、背が高い方が光を受け取るのに有利となります。

だからといって、栽培植物よりも低い雑草であれば放っておけばよい訳ではありません。

光の獲得のためにお互い、より背が高くなろうとします。

そうすると、葉っぱが大きくならずに茎ばかり伸びて、肝心の光を受け取る能力が低下することがあるそうです。

さらに、背が高すぎることにより風で倒伏することもあります。

2)栽培植物が水、養分を吸収するのを邪魔する

水分については、人間がかん水することにより、ある程度影響を抑えることは出来ます。

ただし、(他のものも同様ですが)水分を獲得する競争が単独で起こるわけではなく、他の要因と重なることで事態は複雑になります。

そのよい例が養分です。

植物は、養分を根から水に溶けた状態で吸収します。

肥料分として特に重要と言われているのはチッソ、リン酸、カリですが、これらは水に溶ける性質が異なります。

窒素は水によく溶けて、水とともに容易に移動します。

従って水分を獲得する競争が生じた場合には同時にチッソを獲得する競争も行われます。

これに対し、リン酸とカリは土に吸着されており水にはわずかずつゆっくりとしか溶け出していきません。

つまり、吸収のされ方もゆっくりとわずかずつなので、よほどお互いが生長して根が込み合ってくるまでは、さほど影響を及ぼさないという意見があります。

一方、雑草の種類によっては、特定の成分を栽培植物より多く摂取するため、むしろチッソより影響が強く出るという報告もあり、これらの件についてはまだ十分理解されていないようです。

3)栽培植物の生育を抑える物質を放出する(アレロパシー)

アレロパシーについては、前にも述べましたので説明は省略します(57号で記載しましたので、必要に応じてご覧頂ければと思います)。

一つ、分かりやすい実験があったので、それだけ紹介します。

メヒシバという雑草は栽培植物の生育を妨げる、非常に害の強い雑草として知られています。

このメヒシバを育て、ある程度大きくなった時点で、メヒシバの育っていた土を採取し、ダイズやとうもろこしを育てると、普通の土に比べて著しい減収効果が認められたそうです。

そして、メヒシバから離れた土を使用するに従い、収穫量も増えたそうです。

メヒシバは、主に根からフェノール系の有機物を出しており、これが栽培植物の生育に影響を及ぼしたと考えられています。

4)ある種の微生物、昆虫を寄生させ、栽培植物の病害虫の媒介となる

これも一例だけ示しますと、稲の代表的害虫の、ツマグロヨコバイやヒメトビウンカは、冬のあぜに生える雑草、スズメノテッポウに寄生して越冬します。

この他、センチュウやウィルス他の病害虫が雑草に寄生する例も多くあります。

以上、いずれの影響も、雑草の種類によって異なるのであまり一般論として述べがたい面がありますがご参考になれば幸いです。

雑草について、その3

参考にした本

松中昭一 きらわれものの草の話 岩波ジュニア新書



村岡裕由 富永達 高柳繁 森田弘彦 雑草生態学 朝倉書店



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