今回は久しぶりに微生物の話題です。
以前に、微生物について書いた時から、ずっと疑問に思っていることがありました。
食品とか堆肥とか、微生物を利用したものはなぜ匂いが強いのでしょう?
食品など、特に有名なものがあります。
世界でもっとも臭い食べ物ベスト3は
1位 シュールストレミング(スウェーデンのニシンの缶詰、缶に詰めた後に発酵が進む)
2位 ホンオフェ(エイの刺身を発酵させた韓国の料理)
3位 エピキュアーチーズ(ニュージーランドの缶詰チーズ)
とされています。
日本でも一番臭い食べ物は、くさやの干物。
全部が発酵食品、つまり微生物が絡んでいます。
ということで、今回のテーマは微生物と匂いについてです。
まずはじめに、そもそも私たちは匂いをどのようにして感知しているのでしょうか?
何らかの物質が匂うという場合、その物質から揮発した成分が出ています。
その成分が、鼻の穴を通り、鼻の奥に到達します。
鼻の奥には嗅細胞という細胞がありますが、これは乾くと障害を起こすため、通常は粘液で覆われています。
匂いの元の揮発成分はたとえわずかでも、この粘液に溶解する必要があります。
そして液中で嗅細胞と結合し、電気信号を大脳に送ります。
大脳は、大きく大脳辺縁系よ大脳新皮質に分類できますが、匂いの電気信号は、まず大脳辺縁系に送られ、その後大脳新皮質に送られます。
大脳辺縁系は原始的、本能的な行動を支配する、と言われています。
大脳新皮質でその香りが何か識別したり、その匂いの意味するところを考える時に働きます。
視覚や聴覚の信号は先に大脳新皮質に送られますが、嗅覚はこれらよりももっと直感的、感覚的に処理しなければならない情報が含まれているのかもしれませんね。
こうしてみると、例えばアロマテラピーのようなリラックス法は、人の感性に直接訴えかけるといったことで、いかにも効くような気になります。
それはさておき、香りの元となる揮発成分は、その生物の種々の(新陳)代謝で生産されます。
これには大きく分けて一次代謝と二次代謝があります。
一次代謝は、主要な生体成分の生成反応です。
生きて行くのに必要な糖質やたんぱく質等々を合成したりそれらからエネルギーを獲得したりします。
これに対し、二次代謝は直接、その生物が生きて行くのには関与しない物質を生成します。
例えば、多くの花は昆虫や他の生き物に花粉を運んでもらうために甘い香り成分を合成します。
逆に毒草などは、自分が食べられないために有害な成分を合成します。
これらは植物の例ですが、微生物も実に様々な種類の二次代謝生成物を作ります。
主にこれらが匂いの元となります。
微生物の種類でいえば、細菌、とりわけカビがよく匂い成分を出します。
微生物の出す匂いの種類については、その微生物が好気性か嫌気性かによって大雑把に分類できます。
好気性菌(酸素を利用してエネルギーを獲得する菌)は、酸化により香味成分を出すことが多いです。
これに対して嫌気性菌(酸素を利用しないでエネルギーを獲得する菌)は還元反応により不快臭を出すことが多いです。
また、通性嫌気性菌(周囲に酸素が多く存在していれば酸素を利用し、酸素がない状態では嫌気的に活動する菌)では、嫌気状態での発酵で不完全な代謝により、中間代謝物が多数生成されます。
これらの多くの代謝物が複合して、独特の香りとなります。
このように一種類の微生物だけでも多くの匂い成分を出しますが、通常は多数の微生物が同時に活動しているので、さらに多様な匂い成分が出てきます。
例えば同じ材料をぬか漬けしてもかき混ぜる人によって匂いが変わります。
ぬか漬けと言うと乳酸菌や酵母菌の発酵とされていますが、それだけではなく、様々な菌が活動しています。
かき混ぜる人の手についた常在菌が、そのぬか床で増殖しています。
人によって常在菌の種類が変わるため匂いが変わってきます。
単に乳酸発酵による乳酸の匂いのみではありません。
同様に、お味噌でも同じ材料を使っても仕込んだ家庭によって匂いが微妙に変わります。
質、量ともにたくさんの菌がたくさんの成分を出し、それらの総合として、匂いが強くなる、と言えそうです。
参考にした本 井上重治 微生物と香り フレグランスジャーナル社
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