前回は、種子の登熟について述べました。
植物、動物によらず新しい生命が生まれ、はぐくまれていくのは神秘的ですね。
このような種の登熟や、芽生えに大きく関わるのが植物ホルモンです。
勿論、種だけでなく生長や老化など、あらゆる生理現象にも関わってきます。
そこで、今回は植物ホルモンについて取り上げました。
植物ホルモンとは、植物の体の中で作られる物質で、微量で生長を調節する働きのあるものです。
正式な定義はないようですが、いくつかの条件を兼ね備えていればそれを植物ホルモンと呼ぶようです。
例えば、その物質を取り除くと効果がなくなるとか、その後新たに投与すると効果が出るとか、特定の植物だけでなく多くの植物に当てはまるとか、他の天然物質で置き換えられない、等々です。
植物ホルモンとして作用することが確認されている物質は色々ありますが、現在広く一般に認識されているのは次の5種類です。
・・・オーキシン、シベレリン、サイトカイニン、アブシシン酸、エチレン。
この他、ブラシノステロイドとかジャスモン酸他、多数の物質も植物ホルモンの働きを持ちますが、これらは必ずしも上記の条件を満たしている訳ではないという点で、植物ホルモンとして認めない場合もあるようです。
植物ホルモンは、非常に複雑な働きを持つため、まだまだ解明されていないことが沢山あります。
複雑な働きとは、一つには単一の物質でも色んな生理作用がもたらされることが挙げられます。
例えば、オーキシンであれば頂芽の生長を早めたり、わき芽の生長を抑えたり、老葉の落葉を抑えたり・・・と色んな働きをします。
また、濃度によって働きも変わってきます。
低濃度のオーキシンは、芽生えのときに出る幼葉鞘の生長を促しますが、高濃度になると除草効果を持つといった、一見相反するような効果も持っています。
さらに、複数の植物ホルモンが互いに作用しあって、独特の効果をもたらすこともあります。
後で述べる頂芽優性などが、この一例です。
今回は植物ホルモンの中で、オーキシン、シベレリン、サイトカイニンの3つについて、ごくあっさりと特徴を述べます。
まずオーキシンについてです。
オーキシンは頂芽で生成され、細胞を通って下に移動して根まで達します。
効果については、上述した通りです。
この中でも特に有名なのが頂芽優性という現象で、オーキシンの働きにより、茎の一番先端にある芽の生長が促進されて二番目以降は抑えられます。
次にシベレリンですが、これは発芽を促進したり老化を抑制したりする働きがあります。
オーキシンとともに作用して、オーキシンの働きも強めます。
シベレリンの効果の中でも実用的にも重要なのが、実の肥大化を促進する働きです。
シベレリンにより、受精しなくても実が肥大化し、このことから、種なしブドウを作る時に使われています。
すなわち、開花後一定の日数がたった時に、シベレリンを溶かした水溶液をつくり、これにブドウの房を漬けるという処理が行われます(シベレリン処理)。
サイトカイニンは、老化を抑えたり発芽を促進したりする働きがあります。
また、濃度や植物の種類にもよりますが、花芽の形成を促進させる働きもあります(逆に抑える場合もあり、ややこしいですが)。
オーキシンと拮抗的な働きが多いです。
上述した頂芽優性ですが、これはオーキシンとともにサイトカイニンも関与しています。
サイトカイニンは芽吹きを促進する働きがありますが、オーキシンがわき芽部分でサイトカイニンの生成を抑制するために、芽吹きが抑えられるとされています。
ちなみにオーキシンは重力方向に下に移動しますが、枝を傾けるとオーキシンの移動が遅くなります。
その結果、サイトカイニンが増え、花芽の形成も促進されます。
野菜栽培でこれに関連すると思われるのが、シシトウやナスなどの果菜の追肥です。
教科書を見ると、追肥は分枝の角度を見て行いなさい、とあります。
開いていたら生殖成長していて、閉じていたら栄養生長に傾いているためです。
これは上記のオーキシンやサイトカイニンの働きを理解していれば覚えやすいですね。
栄養生長になっている時に肥料をやっても、実は大きくならず多収は望めません。
生殖成長に傾いているときに、追肥をして実を太らせましょう。
参考にした本
小柴共一 神谷勇治 勝見允行編
植物ホルモンの分子細胞生物学 講談社サイエンティフィック
・・・専門書で詳しすぎて、読んでいくとかえって訳が分からなくなってしまいます。
専門家向けです。(専門家はこのブログなど読まないでしょうが)
桜井英博 柴岡弘郎 芦原坦 高橋陽介 植物生理学概論 培風館
・・・専門書ですが、植物ホルモンに関する記述は比較的少なく、その分基本的なことに絞って書かれているのでわかりやすいです(といってもやはり難しいですが)。
この本で気になった点を、上の本で詳しく調べるのがよいかと思います。
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