2013年6月18日火曜日

農薬の選択性、抵抗性

 前回に引き続き今回も農薬の話です。

 農薬の善し悪しの基準の一つとして、選択性というのがあります。

 すなわち、対象となる害虫やばい菌にはよく効くが、人間やペット、あるいは川に流れ込んだときの魚には効かない。

 こういった薬が、選択性のある優れた農薬ということになります。

 選択性のない農薬は使うのが大変です。

 昔、稲の防除に用いられたパラチオンという、有機リン系の農薬のは、人間にとっても猛毒でした。

 防除の際には付近の交通を禁止したり、監視人を付けて子供が誤って入ってくることのないようにしたそうです。

 今の世の中では、こんなことはやっておれませんので、選択性は必須の要件になります。



 では、具体的には、どのようにすれば選択性が持たせられるのでしょうか?



 分かりやすい例では、マラリアを媒介するハマダラカの防除があります。

 ハマダラカは、主に夜中に屋内に入り込んで人間を吸血します。

 そして満腹になると、壁に止まって一休みする習性があります。

 そこで壁に残留性の高い薬を定期的に散布しておきます。

 そうすると、蚊が壁に止まった時に足から薬が浸透して、退治できます。

 壁に散布するのであれば、基本的には人間に害はありません。

 (蛇足ながら、刺されたあと殺しても手遅れになるのではないか、と疑問に思われるかもしれません。

 しかし、一回刺されたくらいでマラリアにかかることはなく、だいたい5回目に刺されたくらいから感染力を持ち始めるそうです。)



 上記は、殺虫剤の例ですが、殺菌剤の例としては、例えば特定の細菌のもつ細胞壁の成分を作りにくくする薬などがあります。

 植物と細菌では細胞壁の成分は大きく異なり、動物はそもそも細胞壁を持たないので、選択性をもちます。



 このような巧妙な手口で特定の病害虫のみを駆除する訳ですが、敵もさる者でこのような薬を無力にするような適応することがあります。

 これを抵抗性、もしくは耐性といいます。

 たとえば、上記の例のように虫が止まりそうなところに農薬を撒き、足から浸透させる薬に対して、虫は足の裏の皮を厚くする、という適応を遂げることがあります。

 いわば、虫が靴をはいたような状態になることにより薬が効かなくなる訳です。



 微生物の細胞壁の例では、微生物がその薬を分解する酵素を出す、とか、その薬によって影響を受ける酵素が変質する、とかです。

 微生物の場合は特に増殖速度が速い(早いもので10分くらい、遅いものでも数時間で増殖していく)ので、その分、こういった変化も早く起こります。

 では、これらに対して、人間はさらにどのように手を打っていくか?というと、例えば次々と新薬を開発していくわけです。



 しかし、これではいたちごっこです。

 新薬を開発する会社は、次々と新製品を作り続けるかも知れませんが、使う側にとっては一々つき合いきれません。

 そのため、総合的有害生物管理という考え方が求められています。

 単一の農薬に頼らず、連作を避けるとか天敵を利用するとか、多様な方法を組み合わせて防除します。

 これにより、害虫を根絶するのでなく、経済的に不利益が生じない程度に減らすことを目的とします。

 そして、そのためにはどの時点でどのような防除方法を用いるのが良いか見極めるため、害虫の発生を予察することなどを行います。

 発生予察は各都道府県のホームページなどで出ているので、こまめにチェックしましょう。



参考にした本

佐藤仁彦 宮本徹 農薬学 朝倉書店

村本昇 農薬の光と影 文芸社

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