2013年10月29日火曜日

猛暑と害虫

 先週の台風は、皆様のところは大丈夫でしたでしょうか?

 当地ではかなり雨が降ったものの、大きな被害はありませんでした。

 台風が通りすぎるとともに、寒くなった気がしますね。

 10月前半は各地で真夏日を記録。

 とにかく、暑い年でした。

 しかし、さすがにもうこの暑さも終わりでしょう。

 今回は、こうした夏の猛暑の総括として、害虫の発生という面から暑さがどう影響を及ぼしたか考えてみましょう。


 猛暑になるとよくいわれるのが、カメムシが大発生して稲作で斑点米の被害を受ける、というものです。

 あとは、トビイロウンカが発生して、やはり稲を枯らします。

 では、猛暑でこれらの虫が大発生する原因は何でしょう?

 よく考えてみると、事はそんなに単純ではありません。

 まず、カメムシについていえば、年一化性です。(温暖地とか種類に寄っては二化もあります)

 すなわち、成虫で越冬して春になると活動を開始し、6月から7月頃に卵を産んだのち秋頃までに徐々に死んでいきます。

 卵からふ化した幼虫は、8月頃から徐々に成虫になっていきます。

 これに対して、猛暑といわれるのは7月か8月です。

 とすると、この時にはすでにカメムシの総数は概ね決まってしまっています。

 猛暑で増えるにはちょっと産卵回数が少なすぎて、爆発的な発生数の増加とはなりにくいように感じられます。

 一方、トビイロウンカでは事情が異なります。

 日本では越冬できず、アジア大陸からジェット気流に乗って6月ごろにやって来ます。

 そして、日本で3代くらい世代交代します。

 その3世代の間に、個体数を増やすことができます。

 猛暑で数を増やすには、このような夏場の世代交代が頻繁に起こることが必要と考えられます。



 ただし、単に世代交代数が多ければ増えるというものでもありません。

 例えば、ヨトウムシでは年間5回くらい、アブラムシでは40回以上の世代交代があります。

 しかし、どちらも暑さには弱いので、猛暑の夏では必ずしも増えません。
(ヨトウムシの中でもハスモンヨトウは暑さに強く、猛暑で増えることは多いです)



 話はカメムシに戻り、総数がさほど変わらないとなれば、逆に減るのが抑えられるため、大発生することも考えられます。

 減る要因としては、主に天敵や天候。

 そしてカメムシの天敵は?というと、寄生蜂、クモ、カエル、鳥等々です。

 この中で特に影響が大きいのが寄生蜂。

 寄生蜂は上述の年間世代数が大きく、猛暑で増える可能性が高まります。

 従って、カメムシが増えるというのとは反対の影響となりそうです。

 その他のクモ等々については、カメムシのあの悪臭もあり、そんなにたくさん食べません。

 従って、天敵が減ってカメムシが増えた、というのも考えづらいです。

 なお、クモについては、ヨトウムシやウンカの増減に大きく寄与するとされています。

 すなわち、ある種のクモはヨトウムシの幼虫を大量に食べて発生を抑えますが、そのクモは暑さに弱く、猛暑で活動が抑えられてヨトウムシが増えるそうです。



 あと、影響が大きいのは天候。

 といっても暑さでなく、降雨の方です。

 一般に虫は雨が嫌いです。

 雨水は空気中の炭酸分を吸収することにより弱酸性(pH5~6)となるためです。

 酸性や塩基性の水は、浸透圧により虫から水分を奪います。

 今年は極端な集中豪雨があったのを除けば、概ね小雨だったので、虫にとっては都合がよかったのではないかと思われます。

 実は、カメムシの大発生についてはこの猛暑と小雨が影響している、といわれています。

 といっても、上記のような理由ではありません。

 畑地や雑地に住んでいたカメムシが、乾燥を嫌って水田に移動したためというのが真相のようです。


 後、この他には植物の育ち方にも関係します。

 猛暑で何かの植物が上手く育たなければ、それを食害する害虫が繁殖できなくなります。


 以上、猛暑と一口に言っても、昆虫に対する影響はとても複雑で、一筋縄では論じられませんね。

参考にした本

 桐谷圭治  昆虫と気象  成山堂書店

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