土の良否を判定する方法について、前回に引き続き述べていきます。
前回は、土の物理性を評価しよう、ということで三相分布の調べ方について書きました。
今回は、土の化学性です。
土の化学性といっても、評価する指標は数多くあります。
窒素、リン酸等の肥料成分の濃度、pH、電気伝導度・・・等々、挙げていけばきりがありません。
従って、今回はこれらの中でも重要度が高いと思われる、陽イオン交換容量と塩基飽和度について述べていきます。
陽イオン交換容量とは、土の中に肥料分をどのくらい保持しておけるかを示す指標で、CEC(Cation Exchange Capacity)と略されます。
ここでの陽イオンとは、カリウムイオン(K+)やアンモニウムイオン(NH4+)等の肥料分を言います。
また、「交換」というからには陽イオンを何かと交換するということになります。
何をどのように交換するでしょう?
土の中には、マイナスの電荷を持つ粒子が沢山含まれています。
例えば、土を構成する微細な鉱物の表面には、多くの場合マイナスの電荷が表れています。
あるいは、腐植等の有機物にはカルボキシル基(−COOH)やフェノール基(−OH)が含まれていますが、これらから水素イオンが放出されてマイナスの電荷が表れます。
このようなマイナスの電荷がそのまま存在していると不安定なので、このような物質の表面には、様々なプラスの電荷を持つイオンが吸着しています。
カルシウムイオン(Ca2+)やカリウムイオン(K+)、水素イオン(H+)等です。
この中に、例えば肥料分としてアンモニウムイオンが入ってくると、その内のいくばくかがカルシウムイオンやらカリウムイオンやら水素イオンと交換されて吸着し、代わりにこれらのイオンが水溶液中に出て行きます。
このようにして吸着したアンモニウムイオンは雨やかん水でも流れずに土の中に保持することができます。
そして、水に溶けたアンモニウムイオンが植物の根から吸収されて少なくなると、土に吸着したアンモニウムイオンが水に溶け出してきて植物に供給できるようになります。
このような、保肥力の強さを表す指標が陽イオン交換容量です。
ちなみに、マイナスの電荷があるのならプラスの電荷を持つものもあるだろう、と想像できますが、実は土の中にはこのようなものはあまり含まれていません。
関東地方に多い黒ボク土は多少含まれていますが、西日本に多い、カオリナイトを主体とする土壌ではほとんど含まれていません。
従って、例えば硝酸イオン(NO3−)などは吸着しにくいので、雨などで流れていきやすいです。
硝酸イオンの河川への流出が問題となるのは、このような点も一因としてあげられます。
次に、塩基飽和度は陽イオン交換できる容量のうち、何パーセントが詰まっているかを表す指標です。
「詰まっている」というのは、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオンが吸着したところで、この他の、例えば水素イオンやアンモニウムイオンが吸着したところは空いていることになります。
沢山詰まっていたら、新たに投入した肥料分が吸着されずに水で流されてしまうため効率が悪くなります。
従って、陽イオン交換容量と塩基飽和度から施肥量の上限が決まってしまいます。
この上限が、植物の必要量よりも少ない場合は元肥を減らし、追肥で補うことが必要となります。
最後に、陽イオン交換容量を高める方法ですが、やはり堆肥を施すことが有効となります。
腐植分自体の陽イオン交換容量が、土の鉱物のものよりもずっと高いためです。
また、上に述べたようなマイナスの電荷はpHが高い方が発生しやすくなるので、pHを高めることも考えられます。
ただし、最近の農地ではカルシウム分が過剰となっている場合があり、この時には石灰でpHを矯正するのは好ましくないので注意が必要です。
参考にした本
武田健 新しい土壌診断と施肥設計 農文協
岩田進午 土のはたらき 家の光協会
※もしよろしければクリックをお願いいたします。
↓
一般的にはアンモニウムでは、根から吸収できず微生物の力で硝酸体窒素に変化しないと吸収できないのでは?
返信削除匿名さん、おはようございます。
返信削除確かに多くの場合、アンモニウムイオンは、いったん硝化菌によって硝酸体窒素に変化してから根から吸収されますね。
ただし、硝酸体は雨などで流されやすいので、アンモニウムイオンの形で土に保持してもらう必要があります。
で、これを徐々に硝酸体窒素に変えてもらって植物が利用することになると思います。
なお、アンモニウムイオンが、根から全く吸収されないわけではありません。
畑作物は、硝酸イオンの方がより多く吸収される場合が多いですが、アンモニウムイオンも吸収できたと思います。
逆に、イネなどは硝酸イオンよりもアンモニウムイオンの方を好んで吸収します。
根で、アンモニウムイオンを吸収したあと、硝酸イオンに変化させて体内に取り込みます。